奇譚一、二人の政宗


片や銀髪、片や焦茶色の髪をした、右目に刀の鍔で拵えた眼帯をつけた、髪色以外そっくりな容姿の青年が二人、一室で向き合い座っていた。

「で?誰だてめぇ?どうやってここへ忍び込んだ」

「忍び込んだだぁ?何言ってやがる。そっちこそ誰だ?」

「………」

「………」

焦茶の髪をした青年がそう問えば銀髪の青年が問い返す。

互いに譲らず、沈黙が落ちる。

どちらも相手の出方を窺うようにして相手を見ていた。

そして、

「止めだ。埒があかねぇ」

「同感だ。まどろっこしいのは好きじゃねぇ」

双方共に睨み合いを止め、僅かな警戒心を残し相手を見やった。

「名を聞く前に聞きてぇ事がある。正直に答えろ。何で俺と同じなりをしてやがる?」

焦茶の青年が銀髪の青年を上から下まで眺めて聞いた。

すると銀髪の青年は不可解そうに眉を寄せた。

「それは俺が聞きてぇぜ。まぁ、唯一の違いは髪色だな」

「お前にも分からねぇのか?」

「分かってたらアンタと睨みあっちゃいねぇ」

一旦会話が途切れ、それぞれ何か考えるように押し黙った。

二人はあらゆる可能性を推測し、一つ一つ潰していく。

一番始めに考えたのは忍の線だが、何故かそれは無いと思った。

そうなると何故そう言い切れるのかよく分からない自分の感覚に、目の前の自分そっくりの人間にも、ふと興味が涌いてきた。

「ha、おもしれぇ。確認しようじゃねぇか」

そして何となくきっと答えは次の質問で得られる、と確信があった。

「What is your name?」

あえて異国語で尋ねたのも相手が応えられると根拠もなく思ったからである。


二度目の質問、それも異国語で投げ掛けられ、銀髪の青年は一瞬驚きに目を見開いた。

だが、それもすぐさま愉しげな表情に変わり、ゆるりと口端を吊り上げた。

そして今度はその問いに答えた。

「俺は伊達藤次郎政宗。アンタは?」

「奥州筆頭、伊達政宗」

二人は同じ名を名乗った。

互いに嘘を吐いている様子もなく、それが真だと相手に伝わる。

「これが夢じゃなけりゃアンタはもう一人の俺、って事になるな」

妙にしっくりくる。銀髪の政宗は茶化す様に言って視線を投げた。

「そうだな。昨夜から妙な事ばかり起こるし、あながち間違いじゃねぇかも知れねぇ」

それを受けて、焦茶髪の政宗は思案するように頷いた。

「妙な事?」

何か思い当たる事があるのか銀髪の政宗は問い返す。

「昨夜、天上に月が二つ見られた。明け方にはお前が現れた場で幽霊…」

「ちょっと待て!」

最後まで言わせず銀髪の政宗は声を上げて遮った。

「同じだ」

「ah?何がだ?」

「月が二つに幽霊騒ぎ、俺はその幽霊騒ぎを確かめる為にあの蔵に入った」

しかし、気付いたら足を踏み入れたはずの蔵の前に居て、アンタに会った。

「…どういう事だ?」

同じ人間が二人いて、同じ現象が同時に起こっていた?

それにその口振り、まるでこの世がもう一つ存在しているような…。


はっ、と思い至った考えに顔を上げれば相手も同じ事を思い付いたのかこちらを見る。

「お前、蔵に入ったって言ったな。って事は仮にこの世が二つあったと仮定するとお前がこちら側に来た事になる」

俺は蔵になんか入っちゃいねぇからな。

つまり、銀髪の政宗が焦茶髪の政宗の治める奥州に来てしまった、と。

「なるほど。俺がIrregularなわけか」

フッ、と納得したように唇を歪め銀髪の政宗は立ち上がる。

「おい、…お前!」

それを何だか言いにくそうに焦茶髪の政宗が止める。

「何だ?…あぁ、そっか。俺もお前も政宗だから互いに呼び難いな。俺の事は藤次郎からとって藤(フジ)って呼べ。俺はお前の事を政(マサ)って呼ぶ」

「分かった。じゃなくて、何処に行くつもりだ?」

「蔵だ。あそこから来たんだ、もしかしたら帰れるかも知れねぇだろ」

藤次郎の言葉に政宗は一理ある、と頷きかけて止めた。

「何でだよ?」

不満そうに見てくる藤次郎をもう一度座らせ政宗は言う。

「その姿で他の奴等に合って見ろ。どう言い訳する気だ?」

「あ?髪色ぐらいどうってことないぜ。灰を被ったとでも言っとけ」

「馬鹿かてめぇ。どうやったらそんな状況に陥るんだ。俺はそんな間抜けな理由冗談じゃないぜ」

行くなら皆が寝静まった頃にしろ、と政宗は藤次郎を睨み付けた。



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